◇NPO法人「四つ葉のクローバー」理事長 杉山 真智子さん 58
児童養護施設や里親のもとで育った子どもは18歳になると原則、自立しなければならない。そんな若者が2年間、共同生活を送りながら就労支援を受けるシェアハウスを営み、今春で5年を迎える。
子育てが一段落した約10年前から週1回、守山市の自宅近くの児童養護施設に子どもと遊ぶボランティアに通った。「泊まりに行きたい」とせがまれ、外泊の受け入れに必要な里親資格を取り、長期休みに招いた。一緒にご飯を食べ、風呂に入る。当たり前のことに、子どもたちは目を輝かせた。
ある日、4歳の男児を泊めた。一緒に布団の中で幼稚園での話を楽しそうにしていたが、急に静かになった。見ると声を押し殺して泣いていた。
「なんで僕を産んでくれへんかったんや。ここから生まれたかった」。せきを切ったように泣き出した男児に、何度もおなかをたたかれた。抱きしめながら告げた。「大きなおうちをつくって待ってるから」
これが転機だった。物件を探し、シェアハウスに改修。児童福祉を学び、知人の協力も得て2013年、同市でNPOを設立した。
特定の大人から愛され、叱られ、許される経験を繰り返すことで自分が〈大切な存在〉だと実感する。施設の子どもはその経験が乏しく、実社会で心をくじかれやすく、離職率も高い。だから四つ葉では失敗しても否定しない。心のよりどころとなるためだ。
ほかにも様々な子どもたちとふれあってきた。
シェアハウスを始める前、自宅に女子高校生を泊めたときは、「なんでやと思う」と話しかけられた。少女の母親は「必ず迎えに来るから」と言い残して家を出ていった。しかし、戻ってこなかった。男と別の場所で暮らし、出産したという。
「なんでやろな」。そう答え、一晩一緒に考えた。空が白み始めた頃、少女は「もう、いっか」とつぶやき、小さく笑った。
また、ある男子大学生は四つ葉に来て1年後、大学に行かなくなり部屋からも出なくなった。心配するあまり、一時は取り乱したが、4か月ほどして、男子大学生はしょんぼりとリビングに現れ、「こんなんじゃだめですよね」とぽつり。「はい上がる力を持ってるやん」と声をかけた。再び通学を始めた。
そんな寄り添い方を「一緒に沈む」と表現する。「『一緒に考えてくれる人がいる』と感じてもらえたと思う。祈るような思いで一緒に沈む。張りつめた心の中に、ふっと出来た隙間をキャッチして引き上げるんです」。かつて問いかけてきた少女は今、出ていった母親が産んだ子どもを「かわいい」と言って、時々会いに行っている。
四つ葉では月1回、若者らで語り合う場「真夜中会議」に〈卒業生〉も参加し、どう生きていくか真剣に話し合う。「しんどい思いをしたからこそ、とてつもなく優しい」。そんな若者が頑張る姿を見られることが幸せだ。
あのとき4歳だった男児は今春、小学6年になる。「待ってるって約束した。それまでここをつぶすわけにはいかない」(生田ちひろ)
守山市民ホールで17日午後1時、「クローバー・ドリームライブ2018―見つけてください、僕たちを」を開く。四つ葉のクローバーの若者が思いを語り、施設出身の若者を支援する東京の相談所「ゆずりは」の高橋亜美所長と地域に出来ることを考えるシンポジウムを行う。メンバー全員が不登校を経て夢を実現したバンド「ジェリービーンズ」、手話で歌を表現する歌手yokkoの公演も。入場無料。問い合わせは電話(077・584・5688)。